2001年 日本穀物科学研究会例会

第108回例会

  2001年11月30日(金) 13時30分より大阪市北区竃日新聞社ビル研修ルーム501号にて開催されました。 
今回はハートベーカリー21、クラブプロなどパン作りの最前線の方々が多く参加され、当初予定の100名を大きく上回る150人を超える参加者で満席になり補助イスまで使う大盛会でした。
内容 発酵種:摩訶不思議な世界!!自家培養による各種発酵種(酒種、ヨーグルト種、ぶどう種、ライ麦種)のみを使用したベーキングプロセスを紹介する。 またそれに伴う、「謎」、「こつ」の部分を可能な限り科学的に解明する。
講演 1.山崎 豊 氏 (葛繽\九島エスケイファーム製菓、製パン総料理長)
       「種」によるパン作り 
        自然種(天然酵母)について
 私がこの自然種とか天然酵母に興味を持って独自に勉強を始めたのは80年後半で、安定し商品化が可能になったのは90年前半です。ただしこれは私の持論の天然酵母で欧州にあるルヴァン種等は外します。つまり素材の持ち味を生かしながら食べやすい製品を作ることを目的にしているからです。作り方は乳酸菌や穀物や果実や野菜等に付着する酵母を培養し種を作りだします。
 どのような物からも種をおこしパンを作ることは可能です。またおこすのに使用する素材の持ち味が出るのが大変面白いことです。穀物で起こすと、野性味のある味の濃い天然酵母パンが作れますし、果物も産地により味に変化があります。乳製品(今回はヨーグルト)は原料の乳によりまた使用する乳酸菌により味に深みがうまれたりします。ただ、後は温度コントロールでどのような菌をどのくらい増やし、自分が求めている製品に反映するかです。

*ヨーグルト種*
 いまはないのですが、私が研究し始めたとき、一番安定しどこでも手に入るヨーグルトでこの森永のビフィダスヨーグルトを勧めます。ただ以前できなかったヨーグルトも、乳酸菌の種類も代りできるので、今ではどのメーカーの物も関係ないと思います。牛乳の種類により味も変わります。蜂蜜はできれば熱殺菌していない物の方が発酵力は強くなります。
 酸味が強いイメージがありますが、大変クリーミーで私は菓子パンに良く使います。高配合の生地に大変良く合いますし、せみハード系にも黒が生まれ、また程良い酸味がでて食感も軽く上がります。ただライ麦と合わせたりすると生まれ変わり力強い物に変身します。量は少ないのですがヤギの乳をしようするのも大変面白い味が出ます。また脂肪を出来るだけ排除したい場合は乳精(ヨーグルトの
上澄み)で起こすと良いでしょう。

*ぶどう種*
 一番作りやすく、原価も低くコントロールしやすい天然酵母です。今回は糖度の高いピオーネを使用しました。ブドウには大きく分けて白と黒の種類2種類ブドウはありますが白は少し青臭い(土臭い)天然酵母が出来ます。赤はまろやかで品種により味の変化を楽しむことが出来ます。私は最近、水を加えず果物の水分だけで酵母を培養しています。その方がフルーツの味をストレートに味わえるからです。種起こししても5日もすれば使えるのですが、本来のフルーツの持ち味が出ていません。ブドウの旨みは皮と実の間にあり、また皮も重要になりますので、ゆっくり時間をかけて培養すれば、味の深い商品が出来ます。低温でじっくり熟成させるのです。
 安定した酵母を培養するのなら糖度を上げて培養すればかなり安定したものが出来あがりますが私はあくまで添加量は必要最小限に止めています。後で話があると思いますが、この3つの種の内、アルコールや香味成分が最も高いと思います。その為、最終製品に及ぼす影響が複雑で、それがパンの旨みに変わると思います。ハード系やセミハード系に適した天然酵母です。

*ライ麦種*
 今回は唯一、こだわり商品であるドイツのオーガニック石臼挽きライ麦粉で種を起こしました。日本に入ってくるライ麦は殆どが北米と聞いています。ドイツ産のライ麦にも言えますが、土駆使と言うか味が濃いと思います。普通は皆さんご存知のサワー種を作る時に使用しますが、サワー種とはせず表現が適切かどうか解りませんがルヴァン種としました。今回一番野性味のある製品が出来ます。
 今回は種を起こす途中で小麦を変えています。理由はライ麦で最期まで使用しても種は仕上がりますが、かなり強い種が出来難しいです。また乳酸発酵がヨーグルトで種起こしした以上に進むので酸味が出ます。乳酸だけでなく酢酸関係も増える可能性があるので注意してください。この種は一番フランスのルヴァン種に近く、また味が濃いので私はイーストと兼用し、リキッドとして使用しパンの味に深みをつけるのに使用しています。他の2点の種を仕込み水として加えても味に深みが出るのですが、変に味がついたり弱かったりするのでこの種を使用しています。糖分が穀物の持っているものしか無いのでどのようなパンにもしよう可能です。

最後に
 どの種にも言えますが温度コントロール一つで酸味や発酵力のコントロールは可能です。自分がどのようなコンセプトで最終製品を作るか、それにより使用する種を決め微調整すれば満足のいく製品を作ることが出来るでしょう。
最後になりましたがそれぞれの種を使いわけることで、新しいパンの世界が広がることは言うまでもありません。これから冬野菜や果物もかなり出てきます。一度それらの旬の素材を使い種を起こしてみて下さい。

*素材にタンパク質分解酵素を持った物は種は起こせますが、最終的にパンを作ることは難しくなることを付け加えさせていただきます。
山崎 豊 氏
2.吉用和海氏 (兜ト麦館タマヤ)
    酒種の不思議
 酒種は皆さんも御承知の様に麹・米・飯・水を主原料として、清酒製造工程を応用して作られるパン種であり、これらの原料を混合し、保温し、1番種・2番種・3番種・4番種と製パンに供する種を得るのに4〜5日間を要します。この種を利用し、パンを作成するわけです。その代表的なパンが酒種あんぱんです。
 この主原料の中で特に酒種の商品に影響を及ぼすのが麹菌であり、その麹の種類にはパン麹・酒麹・甘酒麹・みそ麹・しょうゆ麹などがあります。酒種に使用する麹はパン麹・酒麹であり、これらの培養が後の商品作りに大きな影響を及ぼします。そのため自社での麹培養はかなり難しい面があるため業者に依頼し、自社においてはその出来あがりの麹を使用し、製パンに供する種作りを行なって降ります。種作りにおいてはイースト菌の付着した人は一切培養室に入室出来ない状態にして(決められた人のみ入室可能)、見学も一切お断りしています。
 我が社は創業50周年を迎えております.私は10年足らずなので、酒種についてお話するのはおこがましく思うのですが、我が社の酒種使用のパンの考え方は、日本古来の製法にこだわり、日本でしか無いパンということで、原材料にもこだわり、かなり難しい面が多々あります。
 当然のことながら、ここにおられる方はおわかりと思いますが、食パン・菓子パン・バターロール等々に使用しているイースト(工業用)を使用しているわけでは無いわけですから、イースト使用のソフト感を求めても出来るわけではありません。海外でいうドイツのライ麦サワー、アメリカのサンフランシスコサワー、フランスのルヴァン(フランスパン)等々、国独特のパンの位置付けにあると思います。そのため、酒種に対するこだわりは重要なポイントとなっています。
 私自身、現在の技術からして香りをつけたり、酒種の素を使用し簡単に作ったりと思ったときもあります。と言うのは、種起こしをするときでも酒種の場合定期的な攪拌と言う作業が必要(当然夜中でも)になったり、種温度の管理等のチェックを行ったり、種がうまく出来たと思ったとしても、生地作りにおいてパンを作るベースの小麦粉の物性等によりうまく行かない日々がありました。そうした中で、工場ラインで何とか商品の安定供給が出来る状態になりました。
 安定供給出来る状態にするには、
@:麹菌をいかにあんていして供給出来るようにするか、もしくは増殖をいかにうまくするかにある。
A:酒種を入れた生地を、いかにパンの出来あがる状態にするかにあると思う。
B:出来あがった生地を、酒種の発酵をスムーズにさせそれを包み込む小麦粉(グルテン)をうまくいかすかに
  よって、良い酒種のパンが出来あがると思う。
 以上のことが言えると思います。当然@の出来具合で、商品に大きく影響を及ぼします。その為、温度、時間攪拌時間等を重要なポイントとして作業を行なっています。また、Aの生地作りにおいては、当然使用する小麦粉特性、後の工程等をふまえての生地作りとなります。例えば、ミキシングは控えめに等です。Bの出来あがった生地の、酒種の発酵をスムーズにすることと、包み込む小麦粉をうまくいかすというのは、通常のイーストを
使用した場合、大体決められた発酵時間で出来上がるわけですが、酒種の場合イースト(1x1010)に比べ、当然ながら菌数(1x10)も少ないわけですから発酵時間も長くなります。酒種の発酵時間からしたら、小麦粉中のグルテン質が温度等にも関係しますが軟化していきます。その軟化がある程度を超えると良いものが得られないわけです。
 これら@ABがうまく言った時に良い酒種のパンが出来あがると思います。あと、イースト使用のあんぱんと酒種のあんぱんの工程上の違いですが
@:ガス発生力が弱いのでボリュームが出づらい。
A:生地の熟成の終点に至るまでの時間が長い為ダレ気味になる。その為加水率を減らす。
B:Aの状況になるとパサツキが出やすいので、できるだけ早く包装ししっとりさを保つ。
 以上の点を心がけると良いと思います。
 こういった難しいパン作りではありますが、イースト使用のパンと異なり、日本特有の酒種使用のパンには独特な風味・食感(酒のほのかな香り、しっとりとした食感)が美味ではないかと思います。酒種(天然酵母)にはいろんな効用がある見たいで今後の課題になるかもしれません。
吉用和海氏
3.植田哲夫氏 (オリエンタル酵母工業叶H品事業部
   各種パン種の微生物と有機酸、風味成分について
 現在のようにパン用酵母が生産されていなかった時代、パンは自然界の微生物をうまく利用することで作られていた。最初は無発酵であったパンも偶発的な発見から発酵パンが出来、その美味しさから更に進化して、パン用の「種」を作るようになった。ワインの絞り粕から「ワイン種」などフルーツ系の種やビール製造のビール種からホップス種、更に今でもごく普通に使用されているライ麦パン用の「サワー種」などがあり、日本でも日本酒の麹を利用して作った、独特の「種」である酒種は「あんぱん」や「酒饅頭」に使われ今日に板っている。
 今回はパンに利用できるまでの、いわゆる最終段階の発酵の終わったヨーグルト種、ぶどう種、ライ麦種の各種パン種について調べてみた。結果、各種「種」については各個の特徴を持った数値として現れてきた。また、それらの種を使用四手、それぞれ作られたパンの風味がどのような位置にあるのか?風味分析の機械での測定結果を報告する。
植田 哲 氏
4.福田清司氏 (大洋香料梶@研究所)
   パンの匂い分析について
   パンの揮発成分の研究は1950年代から始まり、現在までに59報が発表されている。特に’70年代に入りキャピラリーGC-MS分析装置の普及と相俟って、その分析研究が盛んに行なわれた。その後香気成分の吸着剤が開発されヘッドスペース香気成分の採取・濃縮技術が飛躍的に発展し、’80年代から’90年代にかけてこのヘッドスペース分析法が主流になった。特に変化しやすい成分の分析や、匂いの経時変化を捉えることができるようになった。
 現在までに小麦を原料としたパンの香気成分は295成分同定され、そのキー化合物であるパンのクラスト部分の特徴的な香気成分として、2-acetyl pyrrolineが報告が報告されているが、まだパンフレーバーの再現まで至っていない。こうしたGCーMS分析と併用して、GC匂い嗅ぎ法により溶出成分の匂いの閾値を測定し、匂いの強度を考慮した評価法が重要視されている。今回この手法の一つであるAEDA法(aroma extract dilution analysis)を用いて、野生酵母からなる発酵種を使用したパン(ブドウ及びヨーグルト2品)と、市販酵母を使用したパンの香りの比較を行なったので、その研究の一端を紹介したい。
福田清司氏
 各種製品紹介と試食の後、辻製製パン技術専門カレッジ教授 吉野精一氏のコーディネートでパネルディスカッションが行なわれ、熱心な討議が行なわれた。
パネルディス
カッション
 
懇親会
連絡先 三宅製粉梶@(〒544‐0034 大阪市生野区桃谷3−2−5)
関西穀物科学研究会事務局 林 孝治(Tel 06−6731−0095、Fax 06−6731−0094
E‐mai:miyake@mbox.inet-osaka.or.jp)   
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