2001年 日本穀物科学研究会例会

第109回例会・総会

  2002年1月25日(金) 13時00分より大阪府庁新館北別館多目的ホール(大阪市中央区大手前3‐1‐43)にて開催されました。 
今回は幅広いテーマだったので始めての方も多くご参加いただきました。 例会の後総会に移り会計報告、新年度の活動計画が承認されました。
内容 穀物科学シンポジウム「21世紀の穀物科学と産業のあり方をめぐって」
講演 岡田憲三氏(元日清製粉鰍ツくば研究所長)
   基調講演 「小麦粉科学の進歩と今後の課題」    
 現代、私たちは地球の限界に遭遇した人類最初の世代と言われている。 20世紀は「無限で劣化しない地球」を前提にして、経済活動を一方的に発展させて来た。 その結果、私たちは非常に豊で便利な生活を享受することが出来た。しかし、20世紀後半に、酸性雨被害、オゾン層の破壊、地球温暖化、砂漠化、森林破壊、天然資源の枯渇化、淡水不足などの地球の限界状態が様々な分野で現れている。
 国連の予測によると、一昨年61億人に達した世界人口は、2050年には標準的推計で93億人に増え、最大で109億人に達する公算もあるという。この人口爆発に加え、アジア諸地域における経済の活性化に伴う食糧の多消費による食糧危機が、近い将来ほとんど確実にやってくる恐れがあり、気の早い人では2010年、気の長い人でも2050年までに必ずと予測している。
 今更、江戸時代のような生活に戻ることは出来ないが、私たちにとっては大いに参考になることが多い。この時代はほとんどが前年かせいぜい前々年の太陽エネルギーで育てた植物の範囲で生活したのである。
 21世紀は「有限で劣化する地球」という考えの下で、資源をこれ以上浪費しない「資源循環型の経済システム」を構築しなければ、人類の生存は難しくなる。
 穀物科学の分野においては、太陽エネルギーを最大限利用し、食品工学、発酵工学、生物工学、遺伝子工学などの技術を活用した小エネルギー型農業、食品産業はの転換に貢献することが望まれている。今回は小麦粉科学に限定し、Cereal Chemistry 誌を中心に研究の流れを紹介して、今後の課題について考えてみたい。
主要参考図書:
三橋規宏 「地球の限界とつきあう法」 (日経ビジネス人文庫)
石川英輔 「大江戸えねるぎー事情」 (講談社文庫)
石川英輔 「大江戸リサイクルー事情」 (講談社文庫)
岡島成行 「アメリカの環境保護運動」 (岩波新書)
米本昌平 「地球環境問題とは何か」 (岩波新書)
石 弘之 「地球環境報告」 (岩波新書)
三橋規宏 「ゼロエミッションと日本経済」 (岩波新書)
木村尚三郎、中村靖彦 「農の理想、農の現実」 (ダイヤモンド社)
村井恒夫編 「ハイテク食糧戦略」 (ダイヤモンド社)
レスター・R/ブラウン、今村奈良臣 訳 「食糧破局」 (ダイヤモンド社)
Cereal Chemistry 誌 (AACC)
Y.Pomeranz編 {Wheat:Chemistry and Technology」 Vol.I,II (AACC)
岡田憲三 氏
パネル・ディスカッション 「穀物科学の21世紀の展望」
1.寒木邦彦氏 (農林水産省農林水産消費技術センター部長)
 「21世紀の食・農業」
はじめに
 世界の人口は開発途上国を中心に急激に増加しています。
 現在は、61億人ですが2025年には93億に達すると見込まれています。 今後は、開発途上国の消費水準の向上が見込まれ、世界の食糧需要は大幅に増加すると見込まれています。一方で、世界の耕地面積(穀物収穫面積)は横ばいで推移しており、これからも大幅に増加する可能性は低いと考えられています。また、栄養不足人口は減少してきてはいるものの、世界には約8億人の栄養不足の人口が依然として存在しています。

我国の食糧事情
1) 日本人の食生活の変化
  昔は、ご飯を中心としたものから、次第に畜産物や油脂類の消費が増えてきました。昭和50年代はお米を中心として畜産物や果物などのPFCバランス(たんぱく質・脂質・炭水化物)のよい健康的で豊な食生活が実現しました(日本型食生活)。しかし、その後はお米の消費量が減少する一方で、たんぱく質・脂質の消費が増加し栄養バランスの崩れが見られ肥満・糖尿病などの生活習慣病が増加し問題となっています。
2) 我国の食糧自給率
  我国の農業生産は人口に比べ農地が狭く(500万ha)山間地も多く食生活の変化に十分対応出来ませんでした。他の先進国では食糧自給率の向上に取り組んできましたが、我国は食料の供給を輸入に頼るようになり、食料自給率は年々低下し、昭和35年には82%(供給熱量自給率)でしたが、現在では先進諸国の中で最低の40%までに下がりました。ちなみに、フランス141%・アメリカ132%・ドイツ100%。
3)食料自給率の向上
  平成12年3月に「食料・農業・農村基本計画」が作られ、食料自給率の目標が定められました。平成11年年度(40%)→22年度(45%)。将来目指すべき数値は(50%以上)。
4) 農業生産戦略的作物は、小麦と大豆
  小麦・大豆については現状では自給率が著しく低い。これからは米の作付けを行なわない水田の有効活用の必要性から本格的な生産の定着・拡大を通じて増大を図る戦略的作物と位置付けられています。
(米と麦・大豆等を適切に組み合わせて収益性の高い安定した水田農業経営の確立)
@ 我国の小麦の需要量は630万トン
   ・パン、麺、菓子等に530万トン
   ・加工用・飼料用等に100万トンとなっています。
A我国の小麦は気象条件等からタンパク質含量が中程度のものであり日本麺の加工に適していることから主に麺に供給されています。しかし、現時点では、日本麺用として輸入しているオーストリア産スタンダード・ホワイトに比べて品質面で及ばないことから混合して使用されています。国産小麦の生産量は58万トン。このうち約5割(31万トン)が麺に、残りは、味噌、しょうゆ、工業用に11万トン。菓子に7万トン。家庭用に7万トンの順になっています。
B 国内産麦の民間流通
  我国で生産される麦は今まで、そのほとんどが政府を経由して流通してきましたが、消費者や実需者のニーズに沿った良品質麦の生産が増加します。このような麦から作られる粉を原料にパン製造者・菓子製造者は消費者に喜ばれる製品の製造が国産麦から可能になります。

農林水産省の消費者行政
  近年、国際化、サービス化が急速に進展する中で消費者を取り巻く環境もより多様化・複雑化しており、食料消費・食生活についても、輸入食品の増大、健康志向の高まり、安全性に対する関心がいっそう増大する一方、食の簡便化志向、消費者ニーズの多様化、高度化が顕著になってきました。
  平成11年7月に施行された食料・農業・農村基本法の下、消費者の視点を重視した食料政策(食料の安全性の確保・品質の改善・食品の衛生管理・品質管理の高度化・食品表示の適正化等)が推進されています。

終わりに
  21世紀の『食・農業』は、環境にやさしい農業、資源のリサイクル、農薬の軽減化等、人が自然と調和しながら、安心・安全・豊で健全な食生活がおくれるような方向を目指しています。
寒木邦彦 氏
2.石川博巳 氏 (昭和産業梶@総合研究所)
   「求められる小麦粉の品質」
ライフスタイルの多様化が進む中、"食"にもより一層の多様化が求められている。まず挙げられるのは嗜好の多様化であり、パンやラーメン、うどん、ケーキ等様々な小麦粉製品のおいしいお店の特集や人気ランキングなどが、多くの情報雑誌などで紹介されている。その中には多数の一般消費者に受け入れられているものもあれば、少数ながら絶大に指示を得ているものもあり、従来よりも消費者のひとりひとりが「自分がおいしいと認めるもの」への探求心が旺盛になっていると思われる。
この流れはインスタント食品やコンビニエンスストアなどに代表される手軽に食べられる中食分野にもみられる。食糧庁の統計によるとこの数年、麺業界では「即席めん」や「冷凍めん」の生産量が増加しており、有名店の味を再現した各社多種多様なカップ麺や短い茹で時間やレンジ加熱でおいしく味わえる商品となっていることなどが要因の1つと思われる。またパン業界でも「菓子パン」や「その他パン」の生産量の増加がみられる。
 また、消費者の嗜好の多様化と共に挙げられるのは健康志向であり、食品成分の健康機能がしばしばテレビ番組で紹介され、その成分が含まれる商品が品薄になるという現象もみられている。
このような市場変化の中、食品製造メーカーサイドは1品種の製造量がこれまでと比較して少量生産であっても、アイテム数をより充実させることで様々な消費者が求めるおいしさを具現化した商品や健康をアピールできる商品を製造していくというように、より多品種の生産体制になっていくと思われる。
このことから、弊社のような製粉会社も食品製造メーカーが作りたい商品、特徴ある商品に最適な小麦粉をこれまでよりも多品種供給していくことが必要になると考えられる。またある商品群や限られたアイテムでの商品化に向けた製造メーカーと製粉会社との共同の取り組みもこれまで以上に多くなってくると思われる。よりおいしくより健康な食品を求める一般消費者のニーズに応えられるような商品を見据えた小麦粉がこれまで以上に求められていくのではないだろうか。
石川博巳 氏
3.山口裕文氏(大阪府立大学大学院農学生命科学研究科教授)
   「擬穀類と人のくらし」
    人は、その祖先の時代、自然の資源を利用して種の存続を計ってきた。資源の利用の内もっとも主体をなすものは食糧である。我々は、何の疑いもなく「主食としての米は、日本文化を創ってきた」などと述べる事が多い。コメ、ムギ、マメなどの穀物の一部を主穀という言い方もするが、この表現では主食の担い手である主体は知らぬ間に変化している。コメを主食とする民族は世界でもごく限られており、現在の日本と強いてあげればミャンマーでしかない。食を「主」と「従」あるいは「主」と「副」に認識している文化のありていであり、韓国でも中国でも、また西洋では食はこのような認識にならない。
  このようにしてみると「擬穀」とはいったいなんだろうか?主穀に対して雑穀という場合は、「主」の対照が「雑」に変わっている。擬穀とは、その雑穀にも分類されない穀物に対して作られた言葉である。穀物に似た穀物ということになろうか・本稿では擬穀類の人との関わりについて民俗植物学に考察してみたい。
  主穀は、コメ、ムギをさす。コメはイネ Oriza sativa 一種からなるが、ムギは、元来は、大麦 Hordeum vulgare
のことであって、後世になるにつれコムギ Triticum aestivum やライムギ Secale cereale やエンバク Avena sativa を含むようになる。 マメは、元来ダイズ Glycine max をさすが、 菽穀とも扱われてアズキ Vigna angularis やソラマメ Vicia faba などたくさんの種を含む。雑穀にはヒエ Echinochloa esculenta やアワ Setaria italisa などが含まれる。擬穀は、穀物の残り滓のように扱われ、一般にはソバ Fagopyrum esculentum とセンニンコク Amaranthus hypocondriacus が含まれる。 主穀や雑穀と扱われるものはイネ科植物であり、菽穀はマメ科植物である。いずれも貯蔵期間として肥大した胚乳と子葉が利用部位である。これに対し、擬穀類はタデ科又はヒユ科である。タデ科やヒユ科の野生植物は、茎葉を野菜や薬味に利用されるが、イネ科植物やマメ科植物のように大群落を作らず、大量利用には難しい性質を持っている。
  擬穀類のうち、ソバの祖先は、中国雲南省や四川省から見つかっている。栽培化はソバとダッタンソバの2種でおこり、アジアを中心に栽培として広がっている。日本人に好まれるソバも漢民族などには好まれず、地域的には限られた利用の広がりをもっている。
  センニンコクの祖先は南米から報告され、3種が利用されている。現在の利用は、南米高地で広く、ネパールでは様々な儀礼に欠かせない穀物をなっている。種子にはモチ性とウルチ性のあることが知られている。
  ソバでは分類も整理されつつあるが、センニンコクでは種の分類や系統発生(起源)について未整理の部分が多く、学者により様々な意見が乱立している。考古遺跡からの発掘品や花粉が近縁の野生種や雑草のものであったかなど判定は非常に困難である。
  野生種が穀物や作物になるための必須条件は、「その群落が大きく種子の収集が容易であること、長時間・長期的に集められる」などである。価値が高くても資源として一定量が集まらなければ、立派な栽培植物にはなりえない。擬穀類の野生種は、群落が小さかったり、家畜に依存した被食型種子散布の性質を示すので、初期の利用の形態はいわゆるイネ科やマメ科の穀物とはほど遠かったと思われる。タンパク質含量が高い、トリプトファンやリジンの含量が多いなど他の穀物とは異なった特徴もあるが、食糧の主体となった例は知られていない。葉や茎の補足的利用から発展して、穀物としての利用が始まったのであろう。人にとって多目的に利用できることが、穀物としての特殊化を妨げてきたのかもしれない。
山口裕文 氏
パネルディス
カッション
 草野毅徳氏(神戸学院大栄養学部教授)のコーディネートで活発な討議が行なわれた。 講演者への質問の外、穀物産業の将来についての問題も浮かび上がった。
草野毅徳 氏

三宅一嘉 氏
(手前米沢先生)
総会  昨年度の事業会計報告、本年予算事業計画が諒承されました。
懇親会


 岡田氏の発声で乾杯
連絡先 三宅製粉梶@(〒544‐0034 大阪市生野区桃谷3−2−5)
関西穀物科学研究会事務局 林 孝治(Tel 06−6731−0095、Fax 06−6731−0094
E‐mai:miyake@mbox.inet-osaka.or.jp)   
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