2003年 日本穀物科学研究会

第114回例会

 5月30日(金)13:30よりホテルアウィーナ大阪にて第114回例会を開催いたしました。 たくさんの方にご参加いただきました。 始めての参加の方も増えてまいりました。
テーマ  食物アレルギーの実態とその解決法をめぐって
講演  アレルゲン除去菓子の開発と検査方法
  尾畑ロ英 氏  森永製菓梶@研究所 技監

 ’90年代の前半から日本ではアレルギー性疾患、特に幼児・児童に食物アレルギーを基因とするアトピー性皮膚炎が急増し始めた。このような状況に対応して、発育ざかりの子供たちに「すこやかさ」を包含したお菓子を提供すべく、三大アレルゲン(卵、牛乳、大豆)を除去したお菓子の開発を行った。森永製菓鰍ェ昭和初期から幼児・児童用ビスケットとして販売している「森永マンナビスケット」の仕込から、卵および牛乳と乳製品を除去し、かわりに栄養価の低減を補う目的でローストした「アマランス粉」を小麦粉に混ぜ、ナタネ油とパーム油から成るショートニングを用いてビスケットを焼成、従来のマンナビスケットと同様な栄養価を持つビスケットを作り上げた。アレルゲンの汚染については、使用原料に三大アレルゲン由来のものが入らないような原料の選択を行い、製造については、仕込、成型、ベーキング、包装工程について、設備機械・器具の洗浄と掃除のマニュアル作りを行い、製造工程の厳重な汚染管理をおこなった。この当時(平成4年)、アレルゲン検出法は外部委託による製品のPCA(受身皮膚アナフィラキシー)反応検査が利用されていた。しかし、製造工程での汚染管理と最終商品の品質管理のためには、迅速な測定と簡便な操作性、多数のサンプルの同時処理、高い検出感度が必要となり、森永生科学研究所鰍ノ依頼して、卵、牛乳、大豆アレルゲン用のELISA(Enzyme-linked immunosorbent assay)キットを作った。ビスケットドウ及び製品からたんぱく質を抽出し、このキットで測定した。当初は、製品についてPCA検査とのダブルチェックを行い、全国12ヶ所の病院を選んで、これらの病院の小児科医から、アレルギー疾患で来院する子供の母親に直接手渡し、好評を得て平成5年から「アマランスビスケット」として発売を開始した。平成11年、都内病院小児科外来で卵、牛乳、大豆のいずれか又は複数の蛋白に感受性のある患者8名での摂取評価の結果、臨床症状の悪化は確認されなかった。平成12年、上記の方法でアレルゲンの汚染管理をし出荷していることに対して、厚労省から、栄養改善法に基づく「特別用途食品(病者用食品)のアレルゲン除去食品(卵、牛乳、大豆)」の表示を許可された(商品名 あぴのんビスケット及びウエファー)。平成13年4月から、厚労省はアレルギー物質を含む食品に関する表示について、表示の対象となる特定原材料24品目を定め、このうち「卵、乳、小麦、そば、落花生」の5品目は、食品衛生法に基づく原材料表示を義務付けた。同年、「特定原材料検出法検討会」がスタートし、森永生科研鰍ニ共に参加、平成14年、森永生科研から「特定原材料測定用エライザキット」を発売。厚労省の検査方法については、5品目について2社のELISAキットでスクリーニング検査を行い、確認検査では、卵、乳はウェスタンブロット法を、小麦、そば、落花生は、PCR法を用いることになった。

尾畑ロ英氏
 花粉症と果実アレルギー
  井出 武 氏  奈良県立医科大学 化学教室

  ひとくちにアレルギーといっても、アレルギー性鼻炎、食物アレルギーといった医学的な使い方から、「女性アレルギー」、「核アレルギー」などといって社会現象の説明などにも使われている。後者の意味は「必要以上に過敏で恐れすぎている」といったところだろうか。「アレルギー」という言葉は、オーストリアの小児科医von Pirquetが提唱したものである(1906年)。それは生体の「変化した反応能力」(allergy=allos+ergon=changed action)という概念で、「自己の成分と異なる物質が一度生体の中に入ると、これに反応する物質ができ、一定の期間を経て、再びその物質が生体の中に入ってきた時、生体はこれに対して最初と違った反応を示すようになる」ということを表現したものである。変化した反応能力が生体にとって有利な方向へ働けば、病原菌や毒素が侵入してきても生体への害反応は起こらず、病気も起こらない、いわゆる「免疫」という現象である。すでにJennerの種痘法の成功(1798年)によって一般に知られたことであった。この免疫の常識に反する現象も報告された。RichetとPirtierが、イヌにクラゲの刺胞の毒素に対する免疫の実験を行っているとき、毒素を注射して2〜3週間後に、致死量にはほど遠いわずかな量の毒素を注射すると、イヌは免疫になるどころか、ショック症状を起こして死亡してしまった(1902年)。そこで、この現象は「無防備」という意味の「アナフィラキシー(anaphylaxis)」と呼ばれた。このことは、見かけ上は免疫と正反対の現象に見えるが、Pirquetは免疫もアナフィラキシーも生体の正常状態からの「ズレ」であると考えて、この両方の現象を包括する概念としてギリシャ語の「変化した反応力」、つまりアレルギーと名付けた。
花粉(pollen)で起こるアレルギーが花粉症(pollinosis)であるが、欧米ではこれを枯草熱(hey fever)と呼ぶことが多い。牧草の枯れ草と接触したために発病したと記載したのはBostck(英国、1819年)である。また、この病気が花粉で起こることを証明したのはBlacley(英国、1873年)である。彼自身も枯草熱かかっており、自身を対象とした実験的研究によって、その原因がイネ科の牧草の花粉であることを証明し、今日臨床的に施行されている皮膚反応試験や空中花粉調査も行っている。
 ここでは花粉症、特に私共が関わってきたスギ花粉症に関連するアレルゲン分析とその治療への開発を中心に、ラテックスアレルギー、果実アレルギーとの関連について、アレルゲンという観点からお話をしたい。

井出 武氏 
アレルギー対応ケーキの需要動向とその製造・販売について
  今井美香 マインドファクトリー 代表取締役
  

 アレルギー対応ケーキの需要動向について述べるにあたって、その需要の持つ社会的意義を考るべきであり、その必要性を十分理解して頂きたいと考える。 アレルギー症患者と言うより、成人ならいざ知らず、アトピー症状の幼児や小児の患者を考えるとき、本人たちの苦しみや意思もさわることながら、その患者の親たちや兄弟或いは祖父母、友人その他周辺の人達が、その需要動向に深く係わっていることを理解して頂く必要がある。 他の疫病の場合と若干異なるのは、需要の算定根拠を患者数などから単純に割り出せるものではなく、アトピー症状小児患者の周囲社会環境の差異によって、それは単純に割り切れるものではなく、むしろ、どれくらい周りの多くの人たちが苦労しているのか、そのことをよくよく理解して頂き、その大小或いは温度差によって、その需要の動向に深く係わり左右することの理解を願う。
 今日、アレルギー対応食品が数多く披露されているが、ことケーキに関し、特にデコレーションなど、スポンジ・パウンド生地にホイップクリームで形成するタイプのケーキについて、100%安全と断定できるものは、現時点では皆無であると考えるべき、勿論医薬品と異なって治療を直接目的とするものではないところから、当然その価値観或いは判断などの異なりが生じてくる。 おじいちゃん・おばぁちゃんが孫の誕生日祝いと考えても適わぬ夢、クリスマスも友達のお祝いでも、そこにクリームがたっぷり塗り込められたケーキがあれば駄目、そのために親は勿論子供や兄弟姉妹たち周囲すべての人達の楽しみを押し退けなければならない。
 わたくしが報告することなど、そこに存在する社会的悲劇を理解して頂くことを願うことからすれば、本当に些細なものと実感しているが、それでも、幸いにして私の作るケーキが何とか評価されていることもあり、学術的根拠はそれぞれ専門分野学者にお任せし、ケーキを作る立場から、患者やご両親らに多少なりとも幸せを感じて頂ければと、担当医師や両親たちと私との話し合いの中から得られた内容によって今日に至る経緯を職業経験的な見地から述べる内容について、つぎにそれら内容を箇条的に纏めた。

1.今日のケーキに至るルーツに大麦粉との出会いがあり、それなくして今日のケーキも存在しない。
2.最初に小麦フリーの大麦粉ケーキの研究開発に取り組み、その製法レシピーの確立に成功した。
3.患者全員ではなく、食べても辛うじて大丈夫な人達を対象にして、その商品開発と仕様確定に着手。
4.私の力のみではなく、医師や両親の知恵や工夫と協力を加味した話し合いの中から、その改良が進んだ。
5. 完全なパッチテストの実施と結果に順応した患者周辺の協力の賜物として、更に製品内容が向上した。
6.レシピーの改善に取り組み、国に表示を義務づけられた小麦など5品目と表示を奨励された19品目全24品目のアレルゲン含有食品すべてを、使用原料から除外することを目指した。
7.特注改良タイプホイップを採用し、目的の50%に到達したと需要対応の手答えを確信している。
8.需要動向の安否以上に、患者発生数が予想を上回って伸び、需要動向から更にその上昇傾向が窺える。
9.需要に応じて店舗拡大を図ったが、それに反比例して、売上率と共に改良速度が極端に減速した。
10.問題解決こそ私の使命との初心に立ち帰り、店舗縮小の結果、黒字転換、研究速度も倍加しはじめた。
11. 研究実験の過程で、アレルゲンとされる小麦製品も、焼成工程を経た堅焼菓子では、経口後に起こる問題の発生は、私の係わる患者に関しては、全く症状が皆無であるデーター結果を有している。一概に、アレルゲンとされる小麦であっても、その加工処理によって、無害食品に転換する因果関係については、学術的研究    解明の必要性があるのではと、外野からその解明推進を提起する。
12.先端医療技術が華やかに喧噪される今日、遠い将来その問題が解決されるものと期待するが、治療的には   塗布薬などに頼らざるを得ない現状で、食べ物は症状が治癒するしないとは異なる次元に位置し、食べられるか食べられないかで、周囲の生活環境が如何様のも支配されることは悲しい現実です。

 以上について、できる限りの状況資料を取り混ぜ、プレゼンテーション・スライドショーの形を採用、説明と併用して報告するが、現在プロジェクトチームと共に、研究開発促進中の完全対応クリームの基礎レシピーが得られており、TLOとして折衝中であるが、その経緯なども併せて報告できるように努める。
今井美香氏
 懇親会
連絡先 三宅製粉梶@(〒544‐0034 大阪市生野区桃谷3−2−5)
関西穀物科学研究会事務局 林 孝治(Tel 06−6731−0095、Fax 06−6731−0094
E‐mai:miyake@mbox.inet-osaka.or.jp)   
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