2006年 日本穀物科学研究会

第125回例会

2006年1月20日(金)13:30より高津ガーデン(大阪市天王寺区東高津町7-11)にて第125回例会ならびに総会をを開催いたしました。 
テーマ  
 『食品の品質改良剤の現状と今後の展望』

講演  油脂の食品物性と技術開発
                              花王(株) 油脂事業部  水越正彦 氏

 油脂(脂質)は、食品の三大栄養素の一つとして、私たちが生存するために必須の成分です。近年、食生活と生活習慣病の関連が注目され、油脂類の健康機能を目的とした研究技術開発が活発化しています。一方、食品を物性面から眺めた場合、油脂は興味ある物性機能を発現して、私たちの日々の食生活を、おいしく、楽しく、豊かにしてくれています。 ここでは、油脂の食品物性における機能発現に焦点を当てて、そのメカニズム、研究技術開発、市場動向などについて述べさせていただきます。
食品は一般に多成分不均一濃厚分散系とも称される、極めて複雑な系である場合が多く、理想溶液から大きくかけ離れています。さらに、二大食品成分である炭水化物(澱粉など)、タンパク質は親水性の巨大高分子である場合が一般的です。このような複雑な食品系においては、油脂は疎水性の分子あるいはその会合体として存在しています。よって、食品における油脂の機能発現を目指した研究技術開発の核心は、親水性の炭水化物、タンパク質と疎水性の油脂との相互作用の解明とその利用になりますので、コロイド・界面科学的アプローチが有効です。本日はこのような観点に立って、次のような話題を提供できればと考えています。

(内容)
       1.はじめに
           油脂とは
           乳化剤とは        

2.べーカリー製品
           ケーキ
           パン

    3.クリーム

    4.豆腐

水越正彦 氏
  ポリグリセリンエステルの特性と食品への応用
                          阪本薬品工業(株) 研究所 食材グループ  宮本佳郎 氏  

食品用乳化剤は、大別すると、「グリセリン脂肪酸エステル」、「ショ糖脂肪酸エステル」、「ソルビタン脂肪酸エステル」、「プロピレングリコール脂肪酸エステル」、「レシチン」の5種に分類され、これら乳化剤が持つ様々な機能を利用し、多くの加工食品で利用されている。
 中でも、ポリグリセリン脂肪酸エステル(ポリグリセリンエステル及びポリグリセリン縮合リシノール酸エステル)は、1981年に食品添加物「グリセリン脂肪酸エステル」として認可された、安全性の高い食品用乳化剤である。ポリグリセリンエステルは、親水基であるポリグリセリンの重合度や、親油基である脂肪酸の種類およびエステル化度により、親水性から親油性まで広範に物性を変えることができる特徴を持つ。
 ポリグリセリンエステルは、一般的な食品用乳化剤と同様に、乳化、分散、起泡、消泡、湿潤、可溶化、洗浄等の機能を有し、さらに、耐酸・耐塩性といった、他の乳化剤には見られない特徴を持つ。これらの機能を利用し、ケーキ、クッキーなどの小麦粉系食品、アイスクリームやホイップクリームなどの乳製品を始めとして、食品への利用範囲は多岐にわたる。また、澱粉と複合体を形成することで、パンを始めとする澱粉含有食品の老化防止剤として、油脂の結晶を促進・抑制することで、マーガリンなどの加工油脂製品にも利用されている。
一方、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステルは、食品用乳化剤の中で、最も優れたW/O乳化力を持ち、マーガリンなどの加工油脂への利用や、チョコレートの粘度低下剤として作業性の向上に役立っている。
 今回は、ポリグリセリンエステルの様々な機能の中から、パンやケーキなどの小麦粉系食品に対するアプリケーション及びマヨネーズなどの油脂含有食品に対するアプリケーションについて紹介する。

宮本佳郎 氏 
   水分・油脂移行防止タンパク素材が冷凍保存中の製パン性におよぼす影響
                      三菱化学フーズ(株) 企画管理部 新規開発グループ  笠原健史 氏

1.はじめに
 食品中の水分や油脂の移行の防止は、食感、風味の劣化による食品のおいしさに繋がる重要な課題である。従来より、乳化剤、増粘剤の利用や油脂の選択等により、油や水をコントロールする工夫がなされてきた。今回、油や水の移行を防ぐバリアーとなる素材として、カナダのBioEnvelop社が開発し,当社が国内製造販売を開始した “リョートーアコイルバリアー” Ryoto Aquoil Barrier(RAB)について紹介する。

2.“リョートーアコイルバリアー” 
 RABは、たんぱく質とペクチンを主成分とするゲル状物質で、タンパク質の種類として乳タンパクと大豆タンパクの2タイプがある。使用方法は、ゲルが液状になる70℃まで加熱し、対象製品に均一に薄くスプレーして使用する。乾燥によりフィルム形成されたバリアー剤は、可食フィルムとして油脂、水分、ガス透過抑制機能がある。

3.応用用途
 RABをクリームをはさんだサンドビスケットの内側に用いるとクリームからビスケットへの油脂の移行を防止する。チョコレートトクッキーの複合菓子では、液油がチョコレートに移行して起こるブルームを防ぐ。冷凍食品のドリップの抑制やナッツ類の酸化防止にも効果が確認された。パイやピザ,春巻などは保管時に水分が移行して食感が損なわれるが、RABの応用により、外はパリパリ、中はジューシーに仕上げることが期待される。

4.製パンへの応用
 RABのガスバリアー性に着目して、冷凍時の水分の昇華抑制による冷凍焼成パンの品質改善効果について検討した。

小麦粉は市販の強力粉カメリア(日清製粉(株))を使用し、噴霧試料はリョートーアコイルバリア M-100(乳タンパクタイプ:三菱化学フーズ(株))を用いた。カメリアの水分含量13.4%とファリノグラフから得られた吸水率67%からAACC法により粉水分含量14%ベースで計算し、最適水分量65.8%を得た。製パン配合は小麦粉300g、 食塩4.5g、 上白糖18g、 酵母 (ジェイティーフーズ(株))4.0gと上記水分を添加し、AACC法10-10B に準じてストレート法により製パンした。焼成直後のパンに対して、RABを約1.0-2.0g均一に噴霧し、10分間室温 (25℃) にて放置後、約1-4週間、紙箱中にて冷凍(-20℃)保存した。解凍条件は30℃で1-2時間とした。

焼成パンへのRAB 1.5gまでの噴霧は、4週間の冷凍保存期間中のパンの重量減少を低下させ、RABが冷凍パンの乾燥を防ぐ効果があると思われた。また、冷凍保存中のパンクラムの保存性については、焼成後のパンを冷凍保存した後に解凍したパンクラムの軟らかさを調べた結果、RABの1.0-1.5gの噴霧は保存期間3週間においては、無添加のものよりも軟らかさを保持しているようであった。即ち、RABによる冷凍期間中のパンの重量減少率の抑制が、内相部であるパンクラムのソフト感保持にも影響をおよぼしているようであった。従って、値の低さは冷凍中のパンクラムのソフト感の保持ならびに老化抑制にもつながると考えられる。さらに、冷凍保存中のパンの保形性については、RABを焼成直後のパンに噴霧することで、冷凍中に生じるパンのよじれ等を防止すると考えられた。

5.今後の展開
 食品には、油、水分の濃度の違う部分が存在し、その間での移行が起こるが、今回紹介したRABは、これらの境界面に利用出来る。特に水分の移行防止については大きな市場ニーズがある。口の中では違和感なく溶ける可食フィルムでの限界はあるが、さらなる改良により、味、食感、外観など従来よりワンランク上の加工食品の開発に寄与できれば幸いである

笠原健史 氏
総合討論
総 会


 懇親会
連絡先 三宅製粉梶@(〒544‐0034 大阪市生野区桃谷3−2−5)
関西穀物科学研究会事務局 林 孝治(Tel 06−6731−0095、Fax 06−6731−0094
E‐mai:miyake@mbox.inet-osaka.or.jp)   
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