2008年 日本穀物科学研究会

第134回例会

2008年5月30日(金)13:00より高津ガーデン(大阪市天王寺区東高津町7-11)にて第134回例会を開催いたしました。 
テーマ  
 『低利用食品素材の利用の現状と今後』

講演  アマランスの機能特性と食品への利用  〜食料資源としての現状と展望〜
                   大阪市立大学大学院生活科学研究科 食品機能科学分野 小西洋太郎

 世界には未利用あるいは低利用作物が数多く存在します。このようなマイナー作物を再評価することは、生物の多様性を重視する環境・農業政策の一つであり、主要作物の増産とともに世界の食料確保の底辺を広げることにつながります。
 1970年代アメリカ科学アカデミーの提唱によって、これまで低利用作物であったアマランスやキヌアは将来有望な作物として位置付けられ、それ以来、農学、食品科学、栄養学等の分野で研究開発が進みました。高タンパク質・高ミネラルのアマランスは、最近の雑穀ブームにより知名度が上がり、スーパーマーケットでも簡単に入手できるようになりました。しかし、価格やレシピの面で消費者が戸惑うこともあるようです。
 本講演では、これまでのアマランスの成分特性および機能性について概説するとともに、最近の加工・利用法に関する研究例、根本博士ら(信州大学)が開発した4倍体種子(大粒種子)の成分特性について紹介します。さらに、アマランスが地域産業の活性化や食育の教材として活用されている事例を紹介し、食料資源としてのアマランスの将来への展望について考えてみたいと思います。

講演内容:
1)     雑穀のなかのアマランス
2)     アマランス種子の成分の特徴と機能性
3)    アマランスの加工特性〜膨化加工の最適化
4)     アマランスの4倍体の開発
5)     アマランスと地域開発
6)     今後の課題と展望

小西洋太郎 氏
   キヌアの成分特性と機能性食品への利用
                                           近畿大学 農学部  渡辺 克美 
                                           京都文教短期大学 安藤ひとみ  

 20世紀後半は飽食の時代とも言われ、生活習慣病が大きな問題となってきた。現在の日本を見ると、生活習慣病患者数の増加に伴う医療費の高騰が大きな問題となり、それに対する対策の一つとして特定保険用食品など機能性食品への関心が大きく高まり、食品の第三次機能に対する研究が盛んに行なわれるようになっている。また一方では、今世紀になり地球環境の悪化や人口の増加による食糧の不足が現実味を帯びた問題として取り上げられるようになってきている。これらの問題を解決する一つの手段として、現在はあまり利用されていない資源を再評価し、その利用を拡大していくことは非常に重要であると考えられる。このような過程の中で、キヌアはアマランスとともに取り上げられてきた作物である。最近では、粟、稗、黍などとともに身近にあるスーパーで容易に入手できるようになっている。
 本講演では、我々の研究室でおこなっている研究を中心にキヌアの成分の特徴や機能性食品としての有用性について紹介したい。また、日本におけるキヌアの栽培や普及についても紹介する。

・キヌアの成分特性
 キヌアは、米や小麦などの穀類に比べると、ミネラル成分が多いことが特徴として上げられている。
キヌアの主成分であり、その加工・調理特性を左右する澱粉は多角形をしており、その直径は穀類澱粉に比べると小さなものである。また、アミロペクチンには比較的多くの長鎖が含まれており、澱粉の糊化特性や膨潤力などの物理化学的性質も穀類澱粉とは異なっている。
 蛋白質についてみると、その構成蛋白としてはアルブミンやグロブリンが主なものであり、穀類に多いプロラミンやグルテリンの量が少ない。キヌア蛋白質のアミノ酸スコアは90と高く、第1制限アミノ酸はPhe+Tyrである。穀類では不足しているリジンはおよそ2倍の含量があり、理想的な蛋白質といっても過言ではない。

・機能性食品素材としてのキヌア
 キヌアには血圧上昇を抑制する作用があることが in vivo で既に示されている。この作用物質のひとつとしては、多くの食品同様に、ペプチドが考えられている。また、アレルゲン検出キットを用いて検査したところ、小麦アレルゲンとは交差反応を示さなかった。他方、血圧上昇抑制効果、さらに抗酸化作用を in vitro で他の穀物だどと比較すると、キヌアの示す効果・作用は強いものであり、キヌアは優れた機能性食品素材であると考えられている。

 渡辺 克美 氏 
 オオムギの機能特性と食品への利用の現状と今後
                                             近畿大学名誉博士 光永俊郎
 オオムギは2万年前にすでに起源地の西アジアでは主要な食料であった。この地で1万年前にオオムギ・コムギを中心とした農耕が誕生すると、このムギ農耕文化はユーラシア大陸の寒温帯地域およびアフリカ東北部に伝播した。これらの地域ではオオムギは主食として広く利用されていたが、石器、鉄器時代そして産業革命を迎える歴史の中で、食料としてのオオムギの主役の座は他の穀物にとって変わられた。
 現在、オオムギはコムギ、コメ、トウモロコシについで世界で生産量の多い穀物であるが、そのほとんどは飼料および発酵原料として用いられている。食料としての利用はごくわずかである。この原因の1つはコメ、コムギに比べて、オオムギ穀粒は表皮が硬く、内部の胚乳部と強く密着している。また、胚乳部と強く密着している。また、胚乳も硬いのでコメのように簡単に糊化しない。そのため、純食品としてはオオムギ穀粒を加湿、加熱、加圧などの処理により押しムギにして混ぜるか、焙煎、粉砕してムギこがし(こうせん、はったい粉、チベットでツァンパ)にされて利用されているが、その量は限られている。しかし、これらの処理はオオムギ成分、特にデンプン、タンパク質の変性、可溶成分の流失、成分間の反応を引き起こして、オオムギ本来の特性を失い、加工性の乏しいものにしていまう。
 最近、オオムギ穀粒を簡単に処理することのできる新しい技術「ドラフトバーレー分級製粉精粒法」が開発されて、オオムギを新しい食品素材としての機能特性、さらに加工・調理特性についての研究が進められてきた。

ドラフトバーレー分級製粉精粒法とは
 この方法の特徴は竪型酒米用搗精機をオオムギ用に改良した装置を用いることにある。酒米用搗精機は主にコメ穀粒をその外側から中心部近くまで削って除くき、吟醸酒用米粒を調整するのに利用されている。オオムギ用の改良型搗精機の利用はオオムギ穀粒を外側から中心部までを、段階的に削り、穀粒を層別に製粉して、今までできなかったオオムギの分級粉の調整を可能にした。

オオムギ穀粒各部位の分級粉
 ドラフトバーレー分級製粉精粒法により、オオムギ穀粒1粒の外側から中心部までの各層別の栄養・機能成分―タンパク質、デンプン、食物繊維、脂質、ビタミン、ミネラルなど−の分布、特性を知ることができるとともに、栄養特性はじめ機能特性の異なる部位別のオオムギ分級粉の調整が可能になった。

アレルギー反応用食品の開発
 部位別に調整されたオオムギ分級粉は新しい食品素材として、オオムギの食品への新しい利用を可能にした。その1つとして、現在、食品の摂取で起こる食物アレルギー疾患、特に小児アレルギー疾患(アトピー性皮膚炎)が増加している。これらの子供に適応できる食品素材としてオオムギ分級粉の利用を検討して、アレルギー児用の食品の開発・試作を試みた。これらの成果を紹介する。

光永 俊郎 氏
 Development of Non-Oilseed Legumes as Source of Protein to Strengthen Food  
 Security in Marginal areas

       Jember University  Faculty of Agricultural Technology         Dr.Achmad Subagio
Dr.Achmad Subagio


 懇親会
連絡先 三宅製粉梶@(〒544‐0034 大阪市生野区桃谷3−2−5)
日本穀物科学研究会事務局 林 孝治(Tel 06−6731−0095、Fax 06−6731−0094
E‐mai:k-kondoh@key.ocn.ne.jp)   
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